本ページでは、人権の歴史、人権の種類についてまとめます。
権利とは、人権とは
権利や人権について、様々な表現で定義されています。いくつかの辞書の定義を見てみます。
権利とは
広辞苑
1. ある事をする、またはしないことができる能力・自由
2. 一定の利益を主張し、また、これを享受する手段として、法律が一定の資格を有するものに賦与する力
デジタル大辞典
1. ある物事を自分の意志によって自由に行ったり、他人に要求したりすることのできる資格・能力
2. 一定の利益を自分のために主張し、また、これを享受することができる法律上の能力
Oxford Languages
1. 道徳的に正しく、公正で、名誉あるもの
that which is morally correct, just, or honourable.
2. 何かを持つか行う道徳的または法的権利
a moral or legal entitlement to have or do something.
人権とは
広辞苑
人間が人間として、生まれながらに持っている権利
デジタル大辞典
人間が人間として当然に持っている権利。基本的人権。
Oxford Languages
すべての人に属すると信じられている権利
a right which is believed to belong to every person.
まとめると
権利には、1. 法的に保障されない権利と、2. 法的に保障される権利がある。
人権とは、人間であるという条件を満たすもののみが持つ権利です。人権は様々な権利のセットです。セット内容は以下の「人権の種類」にまとめます。
人権の歴史
紀元前
紀元前539 古代ペルシャ:キュロスの円筒:キュロス大王が、バビロニア人の権利を保証する勅令を公布した。これをもって「世界最古の人権宣言」とされる。(ただし、この解釈を否定する研究もある。)
紀元前509〜 共和政ローマ:ローマ市民権:ローマ市民に権利が与えられ、一定程度の民主的な統治が行われた、領地の拡大とともに権利を持つ市民も広がった。
紀元前451〜 古代ギリシア:アテネ市民権:両親がアテネ生まれである場合のみにアテネ市民権を認めた。男性は自由人であったが、女性や子供は権利を制限された。奴隷も存在していた。
〜1948 世界人権宣言以前
1215 英国:マグナ・カルタ(大憲章):前文と条文63条からなる文書。貴族たちが王の権利を制限し、貴族の権利を保障させ、法による支配を明文化した。英国三大法典の一つ。
1628 英国:権利の請願:王に対して、議会の同意を得ずに課税しないこと、国民を不法逮捕・投獄しないこと、という国民の権利を認めさせた請願。王はこれを無視したため、1642年ピューリタン革命、1649年国王処刑、共和国の樹立に繋がっていく。英国三大法典の一つ。
1689 英国:権利の章典:国王の権利を厳しく制限し、国民(議会)の権利、立法権、徴税権、軍事権など)を拡大した。議会が王の任免権を持つとし、立憲君主制を実現した。英国三大法典の一つ。
1776 アメリカ:バージニア権利章典:自然権を規定した。第1条「全ての人は生まれながらにして等しく自由で独立しており、ある先天的な権利を持っている」。
1789 フランス:人権宣言(人および市民の権利の宣言):自然権を規定した。17条からなり、人間の自由、平等、抵抗権、言論の自由、所有権などを認め、法の支配、国民主権、三権分立を定めた。以降、ヨーロッパに人権が広がった。(訳文)
1791 アメリカ:権利章典:アメリカ合衆国憲法(1787年制定)に加えられた人権条項。言論、集会、結社、報道、宗教の自由、所有権、裁判を受ける権利など基本的人権を定め、憲法は政治権力を抑止し、国民の権利を守るためのものと明記した。
1863 アメリカ:奴隷解放宣言:第16代大統領エイブラハム・リンカーンが宣言。1865年アメリカ合衆国憲法を修正し奴隷解放が実現した。(訳文)
1869-1948 インド:マハトマ・ガンディー:インド人の権利のために戦い、1947年、英国からのインド独立を実現した。
1871 日本:解放令:明治政府が身分の廃止や穢多非人等の名称の廃止を行った。
1874〜 日本:自由民権運動:憲法の制定、国会の創設、女性の権利獲得運動などを行った。
1889 日本:日本で選挙が始まる。選挙権を有するのは、満25歳以上直接国税15円以上を収める男子。
1910〜 日本:大正デモクラシー:男女平等、女性参政権、部落解放、言論・集会・結社の自由の獲得など、権利運動を行った。
1914 日本:帝国公道会設立:日本初の全国規模の融和組織(部落問題解決を目指す組織)。板垣退助、大江卓らが設立。
1919 日本:人種的差別撤廃提案:第一次世界大戦後のパリ講和会議で、日本が人種差別を撤廃する提案を行った。アメリカなどが反対し否決された。
1922 日本:水平社設立:日本で二番目に設立された全国規模の融和組織。1946 設立部落解放全国委員会(1955 部落解放同盟に改称)の前身。
1925 日本:選挙権:25歳以上の男性までに拡大。
1945 日本:選挙権:満20歳以上のすべての国民に拡大。女性の参政権が認められた。
1946 日本:日本国憲法:基本的人権が定められた。(第11・12・13・14・19・20・24・25条)
1948〜 世界人権宣言以降
1948 国連:世界人権宣言(人権に関する世界宣言):すべての人間の人権を保障するために、すべての人間と国家が達成すべき共通基準を宣言した。第1-20条 自由権、第21条 参政権、第22-27条 社会権、第28-30条 一般規定からなる。(訳文)
1948 国連:ジェノサイド条約(集団殺害罪の防止および処罰に関する条約):1951発効・日本未批准。集団殺害を国際法上の犯罪とし、防止と処罰を定めるための条約。(訳文)
1950〜 アメリカ:公民権運動:マーティン・ルーサー・キング、ローザ・パークス等が、アフリカ系アメリカ人の公民権(市民権)の獲得と、差別の解消を求めて行った運動。
1952 国連:婦人参政権条約(婦人の参政権に関する条約):1954発効・1955日本批准。女性が、選挙権、被選挙権、公職に就く権利において、男性と同等の権利を持つと規定した。(訳文)
1959 国連:児童の権利に関する宣言:児童(18歳未満)の権利を保護し、促進する宣言。身体や精神の安全、住居等を保障し、飢餓、病気、差別、虐待、搾取、暴力等から守ることを宣言した。
1965 国連:人種差別撤廃条約(あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約):1969発効・1996日本批准。人種による差別を撤廃するための条約。(訳文)
1966 国連:国際人権規約(社会権規約・自由権規約・自由権規約の第一選択議定書):1976年発効・1979日本批准(一部留保)。法的拘束力がない1948年の「世界人権宣言」を条約化したもの。
「社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約:A規約」と
「自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約:B規約」からなる。
「自由権規約の第一選択議定書」については、日本は批准していない。この議定書は、個人通報制度(人権を侵害された個人が国際人権(自由権)規約委員会に救済の申立てができる制度)を定めている。《日本弁護士連合会》
1969 日本:同和対策事業特別措置法:同和問題の解決について、国や地方公共団体の責務を定めた。
1975 国連:障害者の権利宣言:障害者の人権や尊厳の尊重、経済的社会的保障などについての宣言。(抄訳)
1977 動物:動物の権利の世界宣言(UDAR:Declaration of Animal Rights)
国際動物権利連盟(International League of Animal Rights)による宣言。1978年、パリのユネスコ会館で発表された。(*ユネスコが発表したものではない。)[出典]
*正式名称 “A Universal Declaration of Animal Rights, adopted from the International League of Animal Rights & Affiliated National Leagues in the course of an International Meeting on Animal Rights in London , September 1977.”
1979 国連:女性差別撤廃条約(女子差別撤廃条約:女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約):1981年発効・1985日本批准。(訳文)。1999女性差別撤廃条約選択議定書採択・日本未批准
1984 国連:拷問等禁止条約(拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は刑罰に関する条約):1987発効・1999日本批准。(訳文)
1989 国連:国際人権規約(自由権規約の第2選択議定書)(死刑廃止議定書・死刑廃止条約):1991発効・日本未批准。本議定書の締約国の領域において、何人も死刑に処せられないとする条約。(訳文)
1989 国連:児童の権利に関する条約(子どもの権利条約):1990発効・1994日本批准。1959年「児童の権利に関する宣言」を条約化したもの。児童を権利の主体であるとする国際条約。(訳文)
2000〜
2000 日本:人権教育・啓発推進法(人権教育及び人権啓発の推進に関する法律):人権についての教育を推進することを目的とした法律。
2007 国連:障害者の権利に関する条約(障害者権利条約):2008発効・2007日本批准。1975年「障害者の権利宣言」を条約化したもの。
2007 国連:強制失踪防止条約(強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約):2010発効・2009日本批准。国家等が個人を拉致するなどして強制的に失踪させることを禁止する条約。(訳文)
2008 国連:国際人権規約(社会権規約の選択議定書):2013発効・日本未批准。労働者の権利、健康への権利、教育への権利、適切な生活水準への権利など、経済的、社会的、文化的権利の実施を義務付けた(訳文)
2016 日本:障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律):人権三法の一つ。
2016 日本:ヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)。人権三法の一つ。
2016 日本:部落差別解消推進法(部落差別の解消の推進に関する法律):2016施行。人権三法の一つ。
2016 日本:選挙権:満18歳以上のすべての国民に拡大。
2023 日本:LGBT法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)
《参照》
Wikipedia.
みんなの人権. 国連広報センター. https://www.unic.or.jp/files/un00_12.pdf.
世界史の窓. https://www.y-history.net/.
女子差別撤廃条約実施状況報告. 外務省. 1987/5. https://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/1st_report_jp.pdf
人権の種類
基本的人権
基本的人権とは、自然権+社会権(+その他新しい人権等)です。人間が当然に持っている権利であり、単に人権とも言います。
国家ごとに憲法などによって規定します。原則として国家が基本的人権を侵害する事はできませんが、法をを犯したとき、複数の人権が衝突したときなどは人権が制限されます。
人権の発展
社会の発展とともに、人権の種類は増えています。人権は、第一世代の人権から、第三世代の人権に分けられるとされています。
第一世代の人権
第一世代の人権は、18世紀後半から紡がれてきた、自然権です。
あなたが、自由と権利を、国家から制約されない権利であり、「国家からの自由」と言われます。
自然権とは、国や法律とは関係なく、すべての人間が生まれながらにして持っている権利です。日本では天賦人権と呼ばれました。
国際人権規約の自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約:B規約)に記載されています。
- 生命権
- 自由権(生命・身体・良心・表現・学問・思想・信教・集会・結社等)
- 幸福追求権
- 平等権
- 財産権
- 参政権
- 公正な裁判を受ける権利
- 等
第二世代の人権
第二世代の人権は、20世紀になって現れてきた、社会権です。
あなたが、国家から社会権の保障を受ける権利です。国家は、あなたが人々が人間らしい生活を送れるよう生活の基礎を保証する社会権を享受できるように保障しなければなりません。「国家による自由」と言われます。
社会権を中心とした権利です。国際人権規約の社会権規約(経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約:A規約)に記載されています。
- 経済的権利
- 労働の権利
- 公正かつ好ましい条件のもとで働く権利
- 社会的権利
- 身体・精神的な健康を享受する権利
- 適切な生活水準を享受する権利
- 社会保障を受ける権利
- 教育を受ける権利
- 文化的権利
- 文化的自由と科学進歩の恩恵を享受する権利
- 等
第三世代の人権
開発途上国などの人々が、第一世代と第二世代の人権を享受するために必要な権利です。
20世紀後半に開発途上国などから提案された集合的な権利です。《参照:バンジュール憲章》
- 発展の権利
- 環境の権利
- 平和と安全の権利
- 人類の共同遺産を開発する権利
- 富・天然資源の自由処分の権利
- 人道援助を得る権利
新しい権利
社会が複雑化し、価値観が多様化する現代、様々な新しい人権が提案されています。
- プライバシーの権利
- 環境権
- 知る権利
- 犯罪被害者の権利
- 知的財産権
- 司法への国民の参加の権利
- 尊厳の権利
- 多様性の権利
- 等
《参照》
人権の発展. 奈良県教育研究所. https://www.e-net.nara.jp/ouen/index.cfm/12,319,c,html/319/haten.pdf.
岡村遼司. 2013/2/3/ 衆議院憲法調査会 基本的人権の保障に関する調査小委員会. https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/chosa/1560213okamura1.pdf/$File/1560213okamura1.pdf.
Wikipedia. 人及び人民の権利に関するアフリカ憲章(バンジュール憲章).
9 新しい人権(知る権利、プライバシーの権利、環境権、生命倫理、犯罪被害者の権利など). 参議院議員憲法審査会. https://www.kenpoushinsa.sangiin.go.jp/kenpou/houkokusyo/houkoku/03_26_01.html.
武者小路公秀. 国際人権の危機を手がかりにした成長?ヒューライツ大阪の20年を振り返って―. ヒューライツ大阪. 2015/3. https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/sectiion3/2015/03/-20.html.