動物の感情・倫理的行動

アイキャッチ:動物の感情・倫理的行動 重要記事

「動物に感情はあるのか?」。ヒトは長い間議論してきました。動物と共感的な関係を築いているヒトは「当然ある」と考え、動物を利用したいヒトやヒトの優越性を信じているヒトは「無い」と考えます。実際はどうなのでしょう。

感情

感情の定義・種類・測り方、感情を持つ動物の範囲について整理します。

感情の定義

感情の定義は確立されておらず、様々に定義されています。

「精神の働きを知・情・意に分けたときの情的過程全般」(広辞苑)
「物事に感じて起こる気持ち。外界の刺激の感覚や観念によって引き起こされる、ある対象に対する態度や価値づけ」(デジタル大辞典)

感情の種類

感情の分類方法

感情は様々な方法で分類されます。以下に一例を示します。

感情 = 情動 + 気分(心理学)
感情(affect)は、情動(emotion)と気分(mood)に分けることができます。情動は、短期的・原初的・強い感情。喜び、驚き、恐れ、怒り、悲しみなどです。気分は、中長期的・漠然とした感情です。良い気分、抑うつなどです。

基本感情(ポール・エクマン:Paul Ekman)
ヒトに共通する、基本的な感情(幸福感・驚き・恐れ・悲しみ・怒り・嫌悪)があるとする説。

プルチック感情の輪(ロバート・プルチック:Robert Plutchik)
8つの基本感情(純粋感情)と、それらが組み合わさった混合感情があるとする説。《参照》プルチック感情の輪

《参照》

野村理朗. 情動. 脳科学辞典. 2013/9/5. https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E6%83%85%E5%8B%95.
Wikipedia. Affect (psychology)、感情、感情の分類、感情の一覧
心理学用語集: 情動・感情. 心理学用語の学習. https://psychologist.x0.com/terms/132.html

感情の種類

感情は、意識の働きの一つです。
ここでは、感情を肯定的感情、中間的な感情、否定的感情に分類して列挙します。

肯定的感情
幸福感、喜び、安心、満足、面白い| 愛、愛しさ、感謝、幸運、歓喜、恍惚、快、快感、尊敬、親近感、親しみ、信頼、憧憬、憧れ、畏敬、意欲、勇気、感動、希望、楽観、平穏、容認、誇り、誇らしい、名誉等

中間的な感情
驚き、興奮、自負心、納得感| 驚愕、驚嘆、好奇心、興味、積極性、冷静、落ち着き、緊張、リラックス、不思議、責任感、欲望、期待、悩み、諦念、諦め、感傷等

否定的感情
恐れ、悲しみ、怒り、嫌悪、軽蔑、困惑、罪悪感、恥| 不安、苦悩、懊悩、煩悶、焦燥、焦り、憂い、心配、恐怖、後悔、不満、無念、嫉妬、罪悪感、優越感、劣等感、恨、怨み、羨望、苦しみ、切なさ、憤慨、激怒、絶望、憎悪、殺意、愛憎、警戒、煩瑣、恐れ、退屈、悲痛、動揺、悲観、服従、自責、冷笑、不信、失望、空虚等

感情の測り方

ヒトとヒト以外の動物両方に利用できる感情の測り方の一例を示します。

身体的変化
呼吸、心拍数、血圧、ホルモン変化を測定し、感情状態を推察する。

行動変化
接近行動、回避行動、逃避行動、運動の増加または減少などを測定する。

AIによる顔認識
動物の表情を読み取り、感情を測定する。

《参照》

「動物の感情」を識別するAIシステムが開発. TABI LABO. 2021/05/30. https://tabi-labo.com/300604/wt-animal-emotion-recognition-system.

感情を持つ動物の範囲

犬など身近にいる動物に感情があることはすぐにわかります。幸福感、喜び、安心、満足、愛、感謝、快、親近感、信頼、勇気などの肯定的感情や、驚き、興奮、好奇心、興味、積極性、緊張、リラックス、不思議、責任感、期待、諦めといった中間的な感情、そして、恐れ、悲しみ、怒り、嫌悪、不安、苦悩、心配、不満、嫉妬、警戒、不信いった否定的感情など、ヒトと同様、様々な感情が見られます。

一方、牛や豚や鶏も豊かな感情表現を行っているのですが、彼らと関わったことがないヒトは、感情があるということを知りようもありません。私たちと同様の感情があることを腑に落とすと、彼らを傷つけたり食べたりする行為について動揺し、再考することになるでしょう。

さらに、感情表現がヒトにはわかりづらい爬虫類や両生類、魚類、一部の無脊椎動物も、感情を持っていると考えられます。なぜなら、感情は意識の働きの一つであり、これらの種は科学的に意識があると証明されている動物だからです。

また、現在は意識があると証明されていない動物であっても、たとえば昆虫を観察すると、怒ったり、怯えたりしているように見える振る舞いをします。いずれ意識や感情を持っていることが証明されるかもしれません。

倫理的行動

倫理的行動の定義

看護実践の倫理」によると、倫理的行動には以下の4つの要素があります。

  1. 倫理的感受性 臨床倫理問題が生じていることに気づく力
  2. 倫理的推論 それが倫理的に問題である理由を説明できる力
  3. 態度表明 様々な障害を乗り越えて,倫理的に行動しようとする力
  4. 実現 倫理的行動を遂行することのできる力
《参照》

Sara T. Fry, Megan‐Jane Johnstone. 片田範子, 山本あい子訳. 「看護実践の倫理」. 日本看護協会出版会. 2010/4.
看護部倫理指針. 市立札幌病院. 2014/4/4, https://www.city.sapporo.jp/hospital/clinic/department/nurse/ethics/nursing/index.html.

ヒト以外の動物の倫理的行動

ヒト以外の動物の倫理的行動は、昔から知られていました。しかし、それらを知るのは、実際に助けられた人や、口伝や絵や文章として残された記録を知る人に限られました。
近年では、映像技術や撮影機器、YoutubeやSNSなど発信プラットフォームの急速な発達により、多くのヒトがヒト以外の動物の倫理的行動を実際に見るようになりました。このことは動物擁護活動やヴィーガンの拡大に影響を与えているでしょう。

ヒトへの倫理的行動

イルカが、溺れているヒトを背中に乗せ岸まで連れて行ったの話は、古代ギリシャの時代から世界中で記録されています。狼が、ヒトの赤ちゃんを自分たちの家族として育てた話も有名です。近年では、動物園のゴリラが、檻に落ちた子どもを助け、飼育員に手渡した事例もあります。

子供のゾウが人間が溺れてると思い、一生懸命助けに来てくれたり、

猫が、犬から子供を守ったり、

ハイハイして階段に向かうヒトの赤ちゃんを、必死に止めようとする映像も残されています。

その他数えきれないほどの、ヒト以外の動物がヒトを助ける実際の姿を見ることができます。

ヒト以外の動物への倫理的行動

ヒト以外の動物の、他種のヒト以外の動物に対する倫理的な行動も記録されています。ハンドウイルカの家族が、障害を持つカズハゴンドウを迎え入れる。
マッコウクジラが、ハンディキャップを持つバンドウイルカを養子にする。

その他、さまざまな姿が記録されています。

これらは本当に倫理的行動か

倫理的行動ではない

倫理観ではなく本能である
こういったヒト以外の動物の行為に関して、「ヒト以外の動物は、自分の子供だと勘違いして本能的に助けたのだ」と判断するヒトがいます。この判断について考えてみます。

  • ヒト以外の動物は、ヒトと自分の子供の見分けがつかないというバイアス
    自分の子供の見分けがつかない鳥類や哺乳類がいたとしたら、すでに絶滅しているでしょう。
  • ヒト以外の動物は倫理的な行動をとるわけがないというバイアス
    目の前で倫理的な行動が起こっていても、受け取るヒトの思い込みによって解釈が変わります。ヒト以外の動物は愚かで利己的なはずだというバイアスが、その思い込みを生じさせます。ヒト同士でも同様で、例えば、自然災害や貧困問題に対して寄付やボランティアをする人々に対して「偽善だ」と批判するヒトがいます。これは批判する側のバイアスによって、その人にはそう見えるという現象ではないでしょうか。他者の倫理的行動を、偽善・利己的だと判断するヒトは、自身の価値基準や行動原理を参照しています。そのヒトを、ヒト以外の動物がヒトを守った状況に置いた時、そのような行動を取るのでしょう。
  • 本能
    「本能」は、科学的な言葉ではありませんが、今でも、ヒト以外の動物の行動に対して、あるいはヒトの理性的でない行動に対して使われています。多くのヒトは、ヒトが優越しており、ヒト以外の動物は劣っていると考えがちです。ゆえに、家族やパートナー間の感情や母親による子供への感情を、ヒトは愛、動物は本能と使い分けます。この分類は種差別に基づきます。ヒトが愛ならヒト以外の動物も愛、ヒト以外の動物が本能ならヒトも本能です。

たまたま気まぐれに助けたのだ
確かにそうかもしれません。ライオンが草食動物の子供を助けることがあるのは、その時の状況や心持ちによって助けることにしたのでしょう。
しかし、それはヒトも同じです。その時の状況や心持ち、相手との関係によって助ける助けないを判断しています。

倫理的行動である

上記の行動は、他者を危機的な状況から救っているという点で倫理的であることは間違いありません。
では、ヒト以外の動物の倫理的に見える行動は、倫理的行動4つの要素を満たしているでしょうか。

  1. 倫理的感受性 臨床倫理問題が生じていることに気づく力
    :倫理的な行動を取ろうとするヒト以外の動物は、明らかに助ける対象が助けるべき状況にあるということに気づいています。
  2. 倫理的推論 それが倫理的に問題である理由を説明できる力
    :動物が説明していたとしても、ヒトは知ることはできません。しかし動物は、推論しているはずです。例えば、溺れているヒトを助ようとするイルカは、ヒトは泳ぐことが上手ではないこと、溺れたら死ぬこと、ヒトを陸まで運べば助かるであろうことを推論しています。
  3. 態度表明 様々な障害を乗り越えて,倫理的に行動しようとする力
    :大きな犬に立ち向かう猫は自分の危険を乗り越えて、倫理的に行動しています。ハンディキャップを持つイルカを養子に迎えたマッコウクジラの家族は、自分たちの行動が制限され、捕食者に対して危険な状況に陥るにもかかわらず、倫理的に行動しています。
  4. 実現 倫理的行動を遂行することのできる力
    :いずれのケースも、倫理的行動を遂行しています。

すべての要件を満たしていますので、ヒト以外の動物たちの行動は、倫理的行動であると言えます。

《参照》

目黒峰人. イルカ・クジラ解放. https://forms.gle/kAnzu2iEiauSfHNQA.

共感

ヒトは、倫理の源泉は理性である、と考えてきました。ゆえに、ヒト以外の動物は理性がないため倫理的ではありえません。
しかし理性的なヒトのすべてが、倫理的でしょうか。科学者は原爆を落とし、有害な物質を環境にばら撒き、医者は人体実験を行い現在は意味のない動物実験を繰り返しています。政治家や官僚の一部は既得権益を支え、社会的弱者や非ヒト動物を見捨てます。
ヒトは”理性的に”、ヒトやヒト以外の動物を搾取し、暴力を振るい、殺害することができます。

一方、倫理の源泉は共感であるとする考え方があります。この場合、他者に共感することによって、倫理的行動をを行います。

共感の定義

ここでは以下の定義を採用します。
「他者の感情の理解を含めて、他者の感情を共有すること」(澤田,1998)

共感の構成要件

  1. 情動(affective)の共有:他者の感情(emotion)によって感情的に興奮する自然的な能力
  2. 共感的配慮:他者の福祉を気遣う動機付け
  3. 視点取得(認知的共感):他者の心に自分を意識的に置き入れ、他者が何を考え感じているのかを想像する能力

(Decety and Cowell, 2015,p.4)

共感実験

動物が共感や持っているかを測るテストです。例えばラットは、自分の利益よりも仲間の利益を優先する行動をとることがわかっています。

科学者たちは、動物の共感を測るために、残虐で非道な実験を行ってきました。例えばラットを溺れさせたり、傷つけたり、電撃を加えたり、母と子を引き離したり、目の前で殺したりなど、聞くに耐えない実験が膨大に行われています。。
共感実験は、ヒトの、ヒト以外の動物に対する共感や倫理観の欠如を証明するテストとも言えます。
また、仲間を見捨てるヒトもいることから、ラットの倫理観はヒトの倫理観よりも優れている場合があることを明らかにするテストとも言えます。

感情、共感、倫理的行動

自分の感情を参照し相手の感情を洞察することが、共感であり、共感が倫理的行動を促します。
つまり、倫理的行動を取るすべての動物(ヒトを含む)は、感情を持ち、共感しており、逆に言えば感情を持つすべての動物が倫理的行動を取る可能性があるということです。

現時点ですべての脊椎動物と無脊椎動物の一部は、感情(意識)を持っていると認められているため、おそらくそれらの動物は、倫理的行動を取る可能性があるということです。
《資料》2012『非ヒト動物の意識に関するケンブリッジ宣言』

ヒトが知らない、地球上の至るところで、ヒト以外の動物たちは助け合っているかもしれません。
そして、おそらくそうでしょう。

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