動物の意識・痛覚

アイキャッチ:動物の意識・痛覚 重要記事

ヒト以外の動物が、意識を持っていると科学的に認められたのは21世紀になってから。つい最近のことです。動物擁護において重要視される意識と感覚(特に痛覚)、またその関係について整理します。

意識

意識の定義・種類・測り方、意識を持つ動物の範囲について整理します。

意識の定義

意識(Consciousness)の定義は、一般的にも学術的にも定まっていません。つまり意識は解明されていません。ここでは、哲学者ジョン・サール(John Searle)の定義を採用して話を進めます。[1]

「意識とは、私たちが、夢を見ない眠りから覚めて、再び夢のない眠りに戻るまでの間持っている心的な性質のことである。」
(”By “consciousness” I mean those states of sentience or awareness that typically begin when we wake up in the morning from a dreamless sleep and continue throughout the day until we fall asleep again. “)

意識の種類

記事内画像:ヒトと ヒト以外の動物の意識
記事内画像:意識と意識の働き

ヒトの意識の種類

感覚・知覚(覚醒、触感、味覚、視覚、嗅覚、痛覚等)
現象的意識(質感、クオリア等)
感情
(affect:情動+気分)(中性、幸福、愛、慈愛、好意、共感、後悔等)
情動(emotion:一時的な強い感情)(怒り、恐怖、驚き、悲しみ、喜び)
気分(mood:継続的な漠然とした感情)(良い気分、抑うつ)
認識(自己認識、対象の認識、メタ認知、内省、反省等)
認知(知的活動:知覚、記憶、学習、理解、思考、推論、予測、想起、判断、計画、問題解決)

経験、言語直感、好奇心、反応想像、創造
心、心理、精神、自我、意思

ヒト以外の動物の意識

ヒトとヒト以外の動物の意識は、似ている意識から全く異なる意識までがグラデーションになっていると考えると近いにように思います。
似ている意識を考えてみますと、例えば母牛は、子供を大切にし、世話をし、守り、引き離されようとすれば抵抗し、引き離されたら悲しみます。母牛とヒトの母親の意識は似ており、愛や母性、怒り、悲しみ、絶望と呼ばれます。
一方、異なる意識を考えてみますと、例えば、ヒトは五感などによって世界を把握しますが、コウモリは超音波などによって世界を把握します。ヒトは、コウモリの生態や身体機能などを、客観的・科学的に(ある程度は)知っています。しかし、ヒトが、コウモリの主観的な意識、超音波で把握する宇宙を知ることは決してありません。これは、「コウモリであるとはどのようなことか」(トマス・ネーゲル)という言葉で表現されています。また、「環世界」も似た意味で使われますす。
ヒト以外の動物はもちろん、たとえヒト同士であっても、共有し、共感し合える意識から、全く共有できない意識があると思われます。

意識の測り方

意識があるかどうかを直接測ることはできず、対象が意識を持つか否かは、わかり得ません。ヒトは意識を持つとされていますが、実際は不明です。目の前のヒトは哲学的ゾンビかもしれません。

神経系の有無を確認する

意識を生み出すためには、神経系が必要です。植物には神経系が存在しないため、意識は無いと判断されます。
神経系を持つ場合、刺激に対する神経の活動を調べることによって詳細な研究が行われます。これらの研究は、神経科学の諸分野(神経生物学、細胞神経科学、行動神経科学、認知神経科学等)によって行われます。

意識の有無を確認する

意識を測るテストは様々に考案されています。以下にそのいくつかを列挙します。

意識の証拠を集める
意識は、「ヒトの意識の種類」で列挙した意識の証拠を複数集めることによって判断されます。テストの結果、おそらく意識があるであろうと推測し、意識があると”仮に”判断します。
ヒトの場合、言語コミュニケーションによってヒアリングできます。しかしヒト以外の動物の場合、言語以外の、非言語コミュニケーションや行動、電気信号やホルモンの変化などで推し測るため、測定は難しくなります。

ミラーテスト
対象に鏡を見せ、鏡に映っているのが自分だと認識できるかどうかを測定します。現時点で、類人猿、ゾウ、シャチ、バンドウイルカ、カササギ、ハトが自己認識を持っていることがわかっています。なお、ヒトは、約1歳半で自己認識を持ちはじめます。

意識を持つ動物の範囲

記事内画像:進化と 意識の発生

かつてはヒトのみが意識を持っていると考えられていました。
科学的知見の拡大とともにその範囲は広がり、今では「すべての脊椎動物と、少なくとも頭足類と十脚類を含む無脊椎動物の一部」が意識を持っていると考えられています。
つまり、意識は、無脊椎動物時代のどこかで発生したということになります。長い進化の過程で、ヒトの発生と同時に突然意識が発生し感覚や感情が発生したと考える方が不自然です。

意識を持つ動物の範囲に関しては、神経学者らが2012年、2024年に画期的な宣言を行なっています。
2012『非ヒト動物の意識に関するケンブリッジ宣言
2024『動物の意識に関するニューヨーク宣言

また、ヒト以外の動物の法的地位の拡大に関しては、以下の宣言を参照してください。
2019『トゥーロン宣言:動物の法的人格に関する宣言
2022『動物搾取に関するモントリオール宣言

意識があるとわかった動物に関しては、法的に権利を守る必要があります。一方、現在意識があるかどうか不明な動物であっても、予防的に配慮するべきです。21世紀になるまで、ヒトは、ヒト以外の動物には意識がないとし、多大な苦痛を与えてきたことを反省し、その過ちを繰り返してはなりません。

感覚(痛覚)

感覚の定義・種類・測り方、感覚を持つ動物の範囲について整理します。ここでは、感覚のうち、動物擁護活動や動物の権利において特に重要な「痛覚」を中心に考えます。また感覚や感覚の測りかた等についても、意識同様、学術的にさまざまな議論が残されています。

感覚の定義

記事内画像:感覚(痛み)を感じる条件

感覚(sense)は、意識の働きの一つです。
定義は、
「感覚器官に加えられる外的および内的刺激によって引き起こされる意識現象のこと」(世界大百科事典)

ヒトを含む動物が感覚を感じる経路は、3段階になっています。痛覚を例にとると、

  1. 侵害受容器:強い刺激が、痛みを起こす刺激を捉える感覚器(sensory system)である侵害受容器(nociceptor)に捉えられる
  2. 神経:その信号が、末梢神経に伝わり、中枢神経に伝わる
  3. 意識:その信号が、意識に登り、痛覚という感覚が生じる

つまり、生物が痛みを感じるためには、①侵害受容器を持っている、②神経がある、③意識を持っている、の3つの条件を満たしている必要があります。

なお、苦痛とは、感覚的な不快(痛み、温度、吐き気など)や、感情的な不快(抑うつ、悲しみ、悩みなど)、またその組み合わせを表す曖昧な表現です。

感覚の種類

ヒトの感覚の種類

よく知られている感覚は五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)ですが、それ以外にも多様な感覚があります。例えば、温度(温覚器)、平衡感覚・回転角加速度・直線加速度・空間定位(内耳)、圧力、気圧、内臓への刺激、空腹、渇き、窒息の感覚などです。

ヒト以外の動物の感覚

ヒト以外の動物は、ヒトが持っていない感覚器を持っています。例えば、紫外線・赤外線を認識できる視覚、超音波・低周波を知覚できる聴覚、人間には知覚できない臭いをとらえる臭覚、温度を知覚するピット、水の揺らぎを捉える側線、ホルモンなどの科学物質・電界・磁界を捉える感覚器官、あるいはヒトにとって未知の感覚器官で捉えた感覚などです。

動物と共有する感覚器のうちヒトの感覚器の能力を超えた感覚や、ヒトが持っていない感覚器で捉えた感覚を、ヒトは決して知ることができません。

痛覚の測り方

痛覚を測るテストは様々に考案されています。以下にそのいくつかを列挙します。

オピオイド受容体の存在
モルヒネなど鎮痛作用のある化学物質への反応を見て存在を確かめる。無脊椎動物(例えばカタツムリ)もオピオイド受容体持っていることがわかっている。

生理的変化
強い刺激に対して、呼吸変化・吐き気・食欲減退・ストレスホルモン(アドレナリン・コルチゾール・コルチコステロン等)への影響がみられるかを測定する。

脳の変化
痛みによって活発に活動する脳の部位(大脳辺縁系、扁桃体等)の変化を測定する。

損傷回避行動
トカゲの尻尾切り、カニがハサミを切り離す、クモが足を切り離すなど、損傷を避ける行動を見る。

痛みのある部位への反応
さする、抱える、舐めるなどの反応を行うかどうかを見る。

行動によって確認
例えば、ラットは甘い水と苦い水があったら、通常、甘い水を選択する。ラットに痛みを与え、甘い水よりも、鎮痛剤が入っている苦い水を選択したら、ラットは痛みを感じていると判断できる。

痛覚を持つ動物の範囲

「すべての脊椎動物と少なくとも頭足類と十脚類を含む無脊椎動物の一部」は、3つの条件(①侵害受容器を持っている ②神経がある ③意識を持っている)を満たしているため、痛みを感じていると判断できます。ピーター・シンガーは、「小エビとカキの間のどこかに線を引くのが妥当だろう」と書きましたが、これはこの基準を参照した判断です。

予防的配慮

しかし、現在の人類の知見では、どの生物が痛みを感じているかを正しく線引きすることはできません。

かつて早産児に麻酔を使うか否かは医者に任されていました。意識が無い、あるいは意識が無いように見えるためです。しかし、科学の発展に伴い、早産児にを刺すと脳の体性感覚皮質が反応していることがわかりました。このことによって、早産児は、おそらく痛みを感じていると判断されるようになり、麻酔薬を使うようになりました。

ゆえに、科学的に痛みを感じているかどうか不明な生物に対してもできる限り痛みを与えないような、予防的な配慮をすべきであると考える人もいます。

《参照》

[1] John R Searle “Mind, Language And Society: Philosophy In The Real World” Basic Books (1999) pp.40-41 ISBN 978-0465045211.

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