動物実験と聞くと、何か動物たちに悲惨なことが起きているのだろうと感じます。そして、人間のためになっているから感謝しよう、仕方がないと処理します。
この先の疑問、では、「密室で何が行われているのか?」「実験されている動物の種類や数は?」さらに、「動物実験は本当に役に立っているのか?」という疑問まで行き着く人は少ないでしょうし、そこから調べる人はもっと少ないでしょう。凄惨な現実を直視することは避けたいものです。しかも、自分自身が加担しているときは尚更です。
しかし、動物実験は、人類が真剣に取り組み、解決しなければならない社会課題の一つです。
動物実験
動物実験が行われる場合
人間が食べる製品・飲む製品・触れる製品の開発、人間の健康被害の危険があるサービスの開発、人間の病気に関する研究、人と動物の医薬品開発、農業畜産資材、兵器開発、動物の心身や行動等に関する研究、などに動物実験(Animal Testing)が行われます。特に、”生体解剖 (Vivisection)”は、生きたままの動物を解体する実験を指します。動物実験の結果、開発される製品の一例は以下の通りです。
医薬品、添加物、化粧品、シャンプー、石鹸、家庭用洗剤、消臭剤、日焼け止め、口臭対策製品
衣類、靴、コンドーム、コンタクトレンズ、トイレットペーパー(漂白剤等薬品を使っている場合)、車(事故の検証や排ガス吸引実験)
農薬、除草剤、飼料
エネルギー(電磁界、被爆(放射線、放射性物質等))[1]
航空機、潜水艦、生物兵器
等
動物実験に関わる産業
実験動物を開発し供給する会社、動物実験受託会社、化学業界、製薬会社、化粧品メーカー、農薬製造メーカー、エネルギー産業、軍需産業、大学、専門学校、小中高校
動物実験が行われる動物
ありとあらゆる動物が利用されます。例えば以下のような動物です。
脊椎動物: 哺乳類(チンパンジー、サル、ブタ、犬、猫、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、イルカ等)、鳥類、爬虫類(ヤモリ)、両生類(カエル、イモリ)、魚類(ゼブラフィッシュ)、等
無脊椎動物: 頭足類、十脚類、昆虫(ショウジョウバエ、バッタ)、ミミズ、ヒトデ、クマムシ等
動物実験される動物の数
推計 1億1,520万頭(2005)[1]
動物の被害
ここでは実験の詳細は記述せず、キーワードと簡単な説明を羅列しますので、検索にご活用ください。
異種移植: 異種の動物間で内臓などの移植を行う
遺伝子改変動物(トランスジェニック動物/Genetically modified animal): ゲノム編集によって遺伝子に改変を加えた動物
LD 50(Lethal Dose, 50%/致死量 50%) 毒性試験。使用される動物の50%を殺すために必要な投与量を決定するテスト
解剖: 日本の小中高校でも行っている学校がある。
基礎研究: 原理や新たな知見の発見のために行われる。動物に多大な苦痛や不可逆的なダメージを与えることもある
喫煙に関する実験: 動物に強制的にタバコを吸わせて行う実験
キメラ: 異なる種(異なる遺伝子を持つ生物)の細胞を、体内に持つ生物を作る
共感テスト: 動物に電気ショックなどで苦痛を与える、溺れさせる、などして、共感を示すかなどを確かめる
近親交配実験: 動物を近親交配させて行う実験
クローン: まったく同じ遺伝的を持つ動物を作る実験(羊のドリー))
血流を制限する: 脳卒中を起こさせて実験する
交通事故に関する実験: ラット落下実験、動物を乗せた車を衝突させる実験など
行動操作; 動物の行動を外部から操作する(ロボローチ(RoboRoach))
骨折: ハンマーなどで骨を折り、治癒したら、再度骨折させることを繰り返す
切除: 身体の一部や内臓、脳などを切除して行う実験
宇宙犬(Soviet space dogs):ソ連が少なくとも57頭の野良犬を宇宙に打ち上げた実験
窒息: 犬、猫、マウス等の動物を窒息させて行う実験
毒性試験: 毒性がある可能性がある物質、または神経毒や毒物を与える実験
ドレイズテスト: 毒性試験。主にアルビノのウサギを拘束し、片目に薬品を塗り、毒性を確かめる
脳に関する実験: サルや猫などの脳に電極を指すなどして行う実験(まぶたが縫い合わされていた猿もいる)
ノックアウト動物: 特定の遺伝子を破壊し、欠損させた動物
パブロフの犬: パブロフは、犬の食道を取り除き喉に穴を開け、唾液や食物が穴から出て胃に届かないようにし、唾液や胃液の計測を行った
モデル動物: 人工的に、癌や白血病、導尿病など、様々な疾患を抱えた動物を作って研究を行う
等
動物実験に関する動向
世界の経緯
動物実験の規制・廃止は、欧州連合がリードしています。
1991 ECVAM(ヨーロッパ代替法評価センター)設立この後世界各国に代替法評価センターが設立される
1999 ボローニャ宣言:「生命科学における代替法及び動物使用に関する世界会議」で採択された、動物実験の倫理や削減に関する勧告
2005 JaCVAM(日本動物代替法評価センター)設立(国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター内)
2010 EU:実験動物の保護に関する指令を制定(3R の原則をEU法に明文化したもの)
2011 OIE(国際獣疫事務局、現 WOAH:国際獣疫事務局)が、実験される動物に関する基準を定めた
2023 1月25日、動物実験廃止を求めるECI(欧州市民イニシアティブ、120万人以上の署名が集まった)が、欧州委員会に提出された
2024 9月17日、欧州委員会は、動物実験を段階的に廃止するためのロードマップの策定に着手
[2] [3]
2024年時点で、EU加盟国すべて、ノルウェー、アイスランド、英国、スイス、トルコ、イスラエル、インド、オーストラリア、ニュージーランド、台湾、韓国、カナダ、メキシコ、エクアドル、グアテマラ、コロンビア、ブラジル、チリ、45カ国が化粧品の動物実験を禁止しています。[4]
日本の経緯と現状
日本は欧米の動向や市場に適応する形で、前進しています。動物実験に関する法律は、動物愛護管理法に規定されており、”動物実験法”は存在しません。
動物愛護管理法
1973 動物実験に関する初めての規定が、動物愛護法 第十一条に初めて定められる
2005 3Rの原則が、動物愛護法に盛り込まれた
現在は、動物愛護管理法 第四十一条に動物実験に関する規定が定められています。
その他の法令
1980 実験動物の飼養及び保管等に関する基準
1995 動物の殺処分方法に関する指針
2006 実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準
研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針
厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針 [5]
これらの法令を受けて、動物実験を行う産業や施設の中には、独自の基準を設けているところもあります。しかし、動物実験を規制する独立した法律は存在せず、罰則も、監視する機能もありません。実質、野放しとなっています。
代替
3R
3R(3Rs)とは、動物実験における動物福祉の原則です。1959年、ラッセル(W. M. S. Russell)と、バーチ(R.L. Burch)が、著書「人道的な実験技術の原理」(he Principles of Humane Experimental Technique )で提唱しました。[6]
代替(Replacement) 動物の代わりになる方法で実験すること
削減(Reduction) 実験する動物の数を減らすこと
洗練(Refinement) 動物の苦痛を減らすこと
なお、動物権利の観点から認められるのは、代替のみです。
代替実験の手法
手法の詳細は記述しません。キーワードを羅列しますので、検索にご活用ください。
イン ・シリコ(In Silico:コンピューターシュミレーション)、イン・ビトロ (In Vitro)、オルガノイド(Organoid)、細胞実験、数学的モデリング、臓器オンチップ (Organ-on-a-chip)、マイクロ生理学 (Microphysiometry)、マイクロドージング (Microdosing)、ナノ生理学 (Nanophysiometry)、 培養細胞を使った実験、、PET検査、3Dバイオプリンター
アニマリズム党の考え
アニマリズム党は、動物実験に反対しています。
動物実験の中には、ナンセンスでばかげた実験もあります。共感テストなどは最たるもので、動物を観察していればすぐにわかるようなことを、動物に苦痛を与えることで確かめるなどします。
筆者は、普段は事業に出てこない学生が、動物実験の事業だけには出てくる学生がいるという話を聞いたことがあります。
動物実験は、行為だけを見れば、動物虐待と殺害です。立場や目的等があれば、動物虐待・殺害という行為が許されているということです。かつて、立場や目的等があれば、人体実験を行うことができました。その行為は、現在許されていません。立場や目的等は一過性であり、行為は普遍的です。つまり、動物実験の是非は、行為によって判断されるべきです。
かつて、動物は痛覚などの感覚や感情を持たないとされ、無麻酔での実験が行われていました。動物実験反対運動は、その残酷さを良しとしなかった人々から始まっています。動物実験に関する動物福祉は、実験動物の苦痛を減らすから続けさせて欲しいという、業界側からの取引という側面があるでしょう。
連綿と続いてきた、動物実験を続けたい動物の搾取を続けたい人々と、動物を守りたい人々のこの対立は、今現在も続いています。そしてそれは、遅々としてはいますが、動物を守りたい人々の勝利に向かっています。
あなたにできること
現代社会では、動物実験に関係する食品や製品を避けることはほとんど不可能です。ヴィーガンが、一見、動物性不使用の食品や商品を選んでいたとしても、どこかで動物の搾取と関係している可能性があります。例えば、野菜を買った場合、それが自然栽培や有機栽培を謳たっていたとしても、農薬や肥料など動物搾取と関係している製品が使われている可能性があります。海外の場合はヴィーガン農業がありますが、日本では極めて少ない状態です。
動物権利活動家や動物解放活動家、意図的に非意図的にこの状況を受け入れつつ、それを改善し、やがて100%動物の搾取を行っていない食品や商品が当たり前になる世の中を目指し、活動しています。
物事は一足飛びには進みません。動物実験をはじめとする悲惨な動物搾取や殺害を止めるために、先ずは個人としてヴィーガンになり、そして個人や社会を帰るための行動をし、そのうちの誰かが科学者として動物を搾取しない技術を開発し、そして、政治家として法律を変えていくことで、いつの日か必ず、動物実験を行わない社会を実現することができるでしょう。
《参照》
[1] Katy Taylor et al. An Estimate of the Number of Animals Used for Scientific Purposes Worldwide in 2015. SageJournals. 2020/02/24. https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0261192919899853, (参照 2024/11/23).
[2] EUにおける動物実験の段階的廃止に向けた動き. 一般社団法人 東京環境経営研究所(TKK). 2024/10/01. https://www.tkk-lab.jp/post/eu%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%8B%95%E7%89%A9%E5%AE%9F%E9%A8%93%E3%81%AE%E6%AE%B5%E9%9A%8E%E7%9A%84%E5%BB%83%E6%AD%A2%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%91%E3%81%9F%E5%8B%95%E3%81%8D, (参照 2024/11/22).
[3] 柳田覚. EUにおける動物実験の段階的廃止に向けた動き. 一般社団法人東京環境経営研究所. https://www.tkk-lab.jp/post/eu%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%8B%95%E7%89%A9%E5%AE%9F%E9%A8%93%E3%81%AE%E6%AE%B5%E9%9A%8E%E7%9A%84%E5%BB%83%E6%AD%A2%E3%81%AB%E5%90%91%E3%81%91%E3%81%9F%E5%8B%95%E3%81%8D, (参照 2024/11/22).
[4] Cosmetics animal testing FAQ. The Humane Society of the United States. https://www.humanesociety.org/resources/cosmetics-animal-testing-faq, (参照 2024/11/23).
[5] 植月献二. EU の実験動物保護指令. 海外立法情報調査室. https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_4023711_po_025406.pdf?contentNo=1, (参照 2024/11/22).
[6] 解説. 環境省. https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2911/3-1.pdf, (参照 2024/11/22).