2022年10月13日〜21日、IWC68(第68回国際捕鯨委員会総会)がスロベニア・ポルトロージュで開催されました。この記事では、IWC68の結果とIWC69の注目点などをお伝えします。
IWC68:悲願のクジラサンクチュアリ、実現ならず
南大西洋クジラサンクチュアリの設定は、クジラ保護国にとって1998年からの悲願です。今回のIWC68で、数の上ではついに実現できるはずでした。しかし、捕鯨支持国が採決の日に欠席したため、採決自体を行うことができず、設定できませんでした。
IWCには88カ国が加盟。日本は2018年、IWCからの脱退と母船式商業捕鯨の再開を閣議決定し、2019年IWCを脱退、IWC68にはオブザーバーとして出席しています。
IWC68について新聞等で報じられている主な内容は以下です。
- 商業捕鯨再開の採決が、反捕鯨国の反対により見送られた。
- IWCの財政が破綻の危機にあり、分担金を増やし支出を減らすことで合意した。
- 南大西洋をクジラの禁漁区(南大西洋クジラサンクチュアリ)とする提案の採決が見送られた。
日本はこれまで一貫して、クジラサンクチュアリに反対。今回の採決を拒否した捕鯨支持国に影響を与えています。
クジラサンクチュアリとは
サンクチュアリとは、外敵から守られる安全な場所という意味。クジラサンクチュアリとは、クジラが外敵から守られる安全な海域のことです。クジラの外敵とは捕鯨産業です。
これまでクジラサンクチュアリとして2海域が設定されました。
インド洋クジラサンクチュアリ
1979年、IWC31(UK ロンドンで開催)で採択されました。世界初のクジラサンクチュアリです。
南極海クジラサンクチュアリ
1994年、IWC46(メキシコ プエルト・バヤルタで開催)で採択されました。
南太平洋クジラサンクチュアリ
1998年、今から24年前ブラジル政府がIWCに提案し、議論が始まりました。2001年、最初の決議がなされ、結果は否決。それ以来否決され続けています。日本は否決側です。
2022年現在、南米からアルゼンチン、アフリカから南アフリカ、ウルグアイ、ガボン政府が共同提案者として加わり設定を目指しています。南太平洋クジラサンクチュアリが採択されたら、3海域目のサンクチュアリとなります。
IWC68でも南太平洋サンクチュアリの設定が目指されました。しかし反対国17国が採決の日に欠席し、採決を拒否。採決自体が行えず、今回も設立は成りませんでした。
採決を欠席し投票自体を行わせない非民主的なやり方に、提案国は怒りをあらわにしました。クジラ保護国は、南太平洋サンクチュアリを実現する決意を改めて示し、採決ルールの変更を目指しています。
日本によるクジラサンクチュアリ反対活動
日本はこれまで、3海域のクジラサンクチュアリの設定にいずれも反対しています。同時に捕鯨支持国=クジラサンクチュアリ反対国を増やすための多数派工作を行ってきました。
日本によるクジラサンクチュアリ阻止活動の経緯
インド洋サンクチュアリの設立時、日本は反対国を増やす工作を行っていました。例えば、アフリカの東沖、インド洋にあるセーシェル共和国ではシドニー・ホルト氏が中心となってインド洋サンクチュアリ設立運動を行っていました。これに対して、日本はセーシェル政府に補助金を停止すると伝えました。しかしセーシェル共和国はこれを拒否。逆に、セーシェル海域で漁をしていた日本漁船を拿捕し、11.5万ドルの罰金を課しました。
次いで1982年、鈴木善幸首相が4000万ドルの補助を申し出ましたが、セーシェル共和国はこれも拒否しました。セーシェル共和国は、セーシェル海域で日本の漁船が乱獲を行い地元漁業を混乱させていたこと、またお金で国の方針を操作しようとする植民地主義的なやり方に怒っていました。鈴木善幸首相は捕鯨とイルカ漁が盛んな岩手県出身の漁業族議員でした。
南極海クジラサンクチュアリの設立時も、日本は一貫して反対しました。
1994年、南極海クジラサンクチュアリが設立された後に、日本は南極海で調査捕鯨を行いました。クジラ保護国は日本の調査捕鯨は、調査捕鯨の名を借りた実質的な商業捕鯨だと批判し続けました。しかしIWCに日本の捕鯨産業を止める力は無く、2002年から民間団体であるシーシェパードが、2005年からグリーンピースが調査捕鯨妨害活動を行います。
2007年、IWCは、日本に対して南極海 鯨類捕獲調査での致死的手法を中止するよう求める決議を行いますが、日本は調査を続行。
2010年、これを受けてオーストラリアは、JARPAII(第二期 南極海 鯨類捕獲調査)が国際捕鯨取締条約に違反しているとして、日本政府を国際司法裁判所に提訴しました。オーストラリアは、日本政府の目的は①鯨肉販売、②捕鯨共同体(日本鯨類研究所など水産庁所管法人、共同船舶、関連会社)の存続、③官僚の天下りであるとしました。
2014年、国際司法裁判所は、JARPA II(第二期 南極海 鯨類捕獲調査)の目的は科学的研究ではないとし、JARPAⅡの特別許可発給を差し止める判決を出しました。
捕鯨支持国を増やす買収工作
この間も日本は、捕鯨支持国を増やす工作を行ってきました。もっとも、クジラ保護サイドである、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、WWFやグリーンピースもクジラ保護国を増やす買収工作を行っていました。IWCの場は、クジラ保護国と、反クジラ保護国との多数派工作の場でもあります。
日本が買収工作を行ったと考えられているのは、カリブ海諸国、ラテンアメリカ諸国、アフリカ諸国、オセアニア諸国など。買収した国の中には海がない内陸国もありました。買収方法は、間接的にはODAなどの支援、直接的にはIWC出席のための渡航費やホテル代などの肩代わり、女性の手配を提案されたという海外要人もいます。実際に買収工作を行ったのは、政府関係者や学者などです。資金源は、税金です。
日本政府、水産庁は買収工作を否定しつつ、農水政務次官が捕鯨賛同国を増やすためにODAを利用すると発言したり、自民党山際大志郎議員が捕鯨再開に賛同した国に感謝を伝え漁業への技術供与に関する協議を行うなど、建前と実態が見え隠れしています。
IWC68 南大西洋サンクチュアリ採決について
南大西洋サンクチュアリの採決が行われる予定だったのは、IWC68の4日目、2022年10月20日です。採決日、定足数は足りており、南太平洋サンクチュアリ賛成国が採択に必要な3/4を超えていたため、南大西洋サンクチュアリが実現される予定でした。
しかし採択そのものが行えず、今回も実現はできませんでした。採決を行えなかったのは、定足数(採決を行うために必要な最低出席者数)不足によるもの。反クジラ保護国、捕鯨賛成国が、出席しないことによって定足数を不足させ、南大西洋サンクチュアリ設定を阻止しました。
採決に出席しなかった国は以下の17カ国。
- アンティグア・バーブーダ
- コートジボワール
- セントルシア
- モロッコ
- ラオス
- ガーナ
- ベナン
- カンボジア
- カメルーン
- ギニア共和国
- アイスランド
- キリバス
- リベリア
- モーリタニア
- ナウル
- パラオ
- ソロモン諸島
日本政府の間接的・直接的買収工作が行われている国も含まれています。
大西洋と、日本の捕鯨産業の関係
サクチュリュアリの設定を目指している南大西洋は、かつて日本の捕鯨産業が「海賊捕鯨」を行っていた海域です。海賊捕鯨とは、脱法捕鯨や違法捕鯨を行うことです。
日本の捕鯨産業はIWC非加盟国に捕鯨船を置き捕鯨を行なわせ、日本の運送会社が鯨肉や鯨油を冷凍運搬船で日本に輸送しました。IWCの規制逃れです。
大西洋のヨーロッパ・アフリカ側では、当時IWC非加盟国であったスペイン、ポルトガル、南アフリカなどに捕鯨船を置き、禁漁種のクジラを捕獲。
大西洋の南アメリカ側では、ブラジル、アルゼンチン、チリなどに捕鯨船を置き、同様にクジラを捕獲・殺害し、鯨肉を日本に輸送していました。
日本の捕鯨産業は、IWCやクジラ保護国が守ろうとしている、鯨族や、絶滅危惧種の鯨族・母子・授乳中の子クジラを殺害し続けました。
日本の捕鯨産業が大西洋で海賊捕鯨を行っていた期間は20年以上に及びます。この期間、IWCは日本に対して実行力のある対策を打つことができませんでした。この日本の捕鯨産業の行為を止めたのは、シーシェパードでした。20年以上、IWCや国際社会が止められなかった海賊捕鯨を、シーシェパードは、有名な海賊捕鯨船シエラ号を含む3隻を沈没させ、2隻を南アフリカ政府と海軍と共に押収するなどを行い、1979年から80年にかけての1年間で終わらせました。
のちにシーシェパードが妨害行為を行った調査捕鯨実施者である共同船舶株式会社は、当時海賊捕鯨を行っていた水産会社(大洋捕鯨(現マルハニチロ)、極洋)などが共同で設立した捕鯨会社です。日本の捕鯨産業とシーシェパードとの因縁は1979年から始まっていたと言えます。
IWC69に向けて
IWC68の良いニュースは、IWCは海洋プラスチック汚染、海洋汚染・海洋ゴミ・漁網(ゴーストギア)などの防止・削減に優先的に取り組む、というコンセンサスが採択されたことです。
もう一つのニュースは、韓国が捕鯨支持国から、クジラ保護国に転じたというニュースです。韓国は、日本と同様、クジラの混獲という名目で実質的商業捕鯨を行っていると批判されています。一方、水族館に捕獲監禁されていたミナミバンドウイルカをこれまで7名、野生に解放するなど、鯨類に関する保護意識が高まっています。このニュースは、今後IWCのクジラ保護政策の後押しとなると共に、韓国の混獲の解決にもつながることが期待されます。
次回IWC69は、2024年ペルーで開催されます。
IWC69の注目点は、南太平洋サンクチュアリ設定の実現です。南大西洋サンクチュアリの設定は、クジラの保護と共に、海洋生態系の保護にも極めて重要な政策となります。
南太平洋サンクチュアリとして想定されている海域は、地図でわかる通り日本からはるかに遠い海域です。その海域でのクジラの保護・海洋生態系の保護に対して、表に裏に影響力を行使することは倫理的な行為であるとは言えません。
また、1960年代半ば、日本の捕鯨産業が大西洋で海賊捕鯨を行いIWCやクジラ保護国の努力を踏み荒らしてきたこと、2022年になった今でも大西洋のクジラ保護を妨害しようとしていること、そしてそんな日本は世界各国からどう見えるかという観点を持つことも必要です。
日本はクジラ保護国にシフトした方がメリットが大きい。大多数の日本人にとって、捕鯨産業を生き延びさせるメリットはありません。ほとんど需要がない産業、市場原理からすればとうに消滅しているはずの産業に税金を投入し続ける余裕は今の日本にはありません。
税金を投入するべきは、日本人全員、地球に住む存在全員のプラットフォームを守る調査や研究、事業です。日本鯨類研究所など水産庁所管法人・共同船舶・基地式捕鯨業者・関係する鯨類学者の目的を鯨族や海洋環境の保護に変更し、事業を保護のための研究や調査、さらには座礁したクジラやイルカのレスキュー機関に変更し、国民へ丁寧な説明を行えば税金を使用する理解を得られる可能性は十分にあります。
今後もアニマリズム党は、日本をクジラ保護国にシフトするための情報提供や事業も行っていきます。
アニマリズム党について知りたい方はこちらもご覧ください。
《参考》
International Whaling Commission, IWC68 Plenary, Day 4, 2022-10-20 8:57–9:52, https://youtu.be/O2Ni-dQVhfM
Countries call for review of voting rules at International Whaling Commission to prevent pro-whaling nations from holding it ransom with ’undemocratic’ tactics, HUMANE SOCIETY INTERNATIONAL, 2022-10-21, https://www.hsi.org/news-media/countries-call-for-review-of-voting-rules-at-international-whaling-commission-to-prevent-pro-whaling-nations-from-holding-it-ransom-with-undemocratic-tactics/
IWC: pro-whaling nations take whaling commission hostage to prevent conservation decisions, IFAW, 2022-10-21, https://www.ifaw.org/international/press-releases/pro-whaling-nations-take-whaling-commission-hostage-prevent-conservation-decisions?fbclid=IwAR0-hVzB2_y_PYrrsFeYrUAKNR6yKHhdKihGyWmngHYwOsNYyBZZVcRaH60
野村農林水産大臣記者会見概要, 農林水産省, 2022-10-25, https://www.maff.go.jp/j/press-conf/221025.htmlIWC/68/8.1/01/REV2/EN TrackChange , IWC, 2022-10-20, https://archive.iwc.int/pages/view.php?ref=19620&k=