本ページでは、動物解放を実現するために最も有用な概念・道具である、動物の権利について見ていきます。ここでは動物権利と記述します。
権利とは
権利とは、「ある物事をしてよい、またはしないでよいという資格。特に、(一定資格の者に対し)法が認めて保護する、特定の利益を主張・享受し得る力。」[Oxford Languages]
具体的に、”私”が権利によってどう守られているかは、私に権利が無い状態を考えてみればわかります。
- 私は権利を持たないので、権利を持つ人々から暴力を振るわれても守られることはありません。権利を持つ人々は、私へ暴力を振るう権利があります。
- 私が監禁され、見せ物にされ、精神に異常を来しても、誰も助けてはくれません。権利を持つ人々は、私を監禁し、私を使ってビジネスをする権利があります。
- 私が殺され、誰かが私の肉や舌などを食べたとしても、何の問題もありません。権利を持つ人々は、私を食べる権利があります。
- 私を使って、人体実験を行い、体に酷い傷を負わせ、精神を破壊し、回復の見込みがないので殺すことは社会にとって有用です。権利を持つ人々は、健康を保つために、私を使って実験する権利があります。私は死にますが、役に立ったので感謝されます。
つまり、現在、権利が無い状態とは、動物が置かれている状態です。
現実的には、私にに対して上記のようなことをした人は直ちに拘束され、罰せられるでしょう。
権利とは、誰かを守る強力な概念・道具であることがわかります。
私たち人類が享受しているさまざまな権利、自由に行動できる権利、食べたいものを食べる権利、誰かに搾取されない権利などは、当たり前ではありません。
長い歴史の中で、権利がないものたちが戦い、血を流し、殺されながら勝ち取ってきた、”弱者を守る道具”です。
私たちは、誰かが勝ち取ってくれた権利の上にあぐらをかき、権利を持たない者を侵害するべきではありません。
私たちは、権利を持たない存在に権利を譲渡し、法的に認め、解放していくべきです。
動物権利とは
動物権利とは、「動物が正当に扱われる権利」です。
[animal rights:the rights of animals to be treated well. Cambridge Dictionary]
動物権利が認められれば、すべての動物が持つ普遍的で不可侵の権利となります。
「私は、人間の権利と同様に、動物権利も支持している。そしてそれこそは、すべての人類が進むべ道である」エイブラハム・リンカーン→ 《資料》動物権利の歴史
動物権利の根拠
現状、動物が権利を持つことは、認められていません。
社会システム的には、動物は権利の主体ではなく、誰かの所有物や財産として扱われる「モノ」か、人間より下位の生物として扱われています。
動物種によって順位づけされており、愛護動物は最上位に、無脊椎動物は最下位に位置づけられます。いずれも、動物自身が持つ価値は認められておらず、人間の財産や道具としての価値を持つに過ぎません。
動物権利運動は、動物を「権利の主体」にする運動です。
以下に、動物が権利を持つとされる根拠を2つ提示します。
動物は苦痛を感じるから
非ヒト動物はヒトと同様、中枢神経・感覚器官・運動能力を持っており、意思・感覚・感情があり、苦痛や不快を感じ避けようとします。苦痛を感じる生物は、苦痛を与えられない権利を持ちます。
動物は内在的価値を持つから
内在的価値とは、不可侵の権利です。
トム・レーガンによれば、動物は、「生の主体」であるがゆえに、内在的価値を持ちます。生の主体とは、「世界と我が身に起こることを感じ取り、それによって幸福にも不幸にもなり得るもの、伝記的生を送り経験的福祉状態を有するもの」のことです。
ゲイリー・フランシオンによると、動物は、「情感を備える存在」であるがゆえに、内在的価値を持ちます。
内在的価値のあるものは幸福にも不幸にもなり得ます。内在的価値があるものに対して危害を加え、不幸に陥れるのは、内在的価値を貶めます。
ゆえに、内在的価値のあるものは公正に尊重されなければならず、また、尊重を要求する権利があります。他者は、内在的価値があるものを尊重する義務があります。
《参照》
井上太一. 動物倫理の最前線 批判的動物研究とは何か. 2022/5/20. 人文書院.
動物権利の種類
人権のうち動物が必要な権利 = 動物権利
「人間を含む動物は動物権利を持ち、人間は加えてヒト特有の権利を持っている」と言うことができます。
動物権利は、人権と同じではありません。動物にとって必要な権利は、存在や生存に必要な権利です。言うまでもなく「教育を受ける権利」や「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」などは不必要です。
人権のうち、動物に必要な権利を抜き出してみましょう。
第一世代の人権:生命権、自由権(精神の自由・身体の自由(奴隷・苦役の禁止、勾留・拘禁の禁止、拷問・残虐な刑罰の禁止)、平等権(法の下の平等・差別されない権利)、財産権、公正な裁判を受ける権利
第二世代の人権:健康を享受する権利、文化についての権利
第三世代の人権:環境権、平和の権利
今後、動物にどのような権利が必要か議論されていくでしょう。また、動物種や生息域等によっても必要な権利が変わっていくと予想されます。
《参考》
浅野幸治. ベジタリアン哲学者の動物倫理入門. 2021/02/26. ナカニシヤ出版
動物の義務
動物は義務を持ちません。
日本国憲法の三大義務は、普通教育を受けさせる義務(26条)、 勤労の義務(27条)、納税の義務(30条)。いずれも動物には果たすことができません。義務を果たさなくても動物権利は保障されます。子どもなどが、権利を持ちながら義務は果たさなくて良いことと同様です。
手段としての動物権利
動物権利による動物擁護
誰かを守ろうとするとき、法律に基づく権利は、強制力を持って守ることができます。
- 権利侵害に対する制裁:権利を持つ者に対して侵害が行われた場合、侵害した人の権利を制限し、罰を与えることができます。
- 権利侵害の予防:権利を持つ者を侵害しようとする人に対して、罰を持って牽制し、侵害を予防することができます。
子どもを守りたいときは→ 法律によって子供に権利を認め→ 子どもを搾取しようとする人の権利を制限します。子どもの権利を侵害した場合、その人は法律によって処罰されます。
同様に、
動物を守りたいときは→ 法律によって動物に権利を認め→ 動物を搾取しようとする人の権利を制限します。動物権利を侵害した場合、その人は法律によって制裁されます。
動物権利による動物擁護は、社会として人々に動物を守ることを義務付けることができ、犯罪行為以外の動物搾取を無くすことができます。つまり、動物権利の獲得は、動物利用問題の解決、動物解放を実現する最も有効な手段です。
動物解放・廃止主義
動物解放
動物権利運動の帰結として、動物解放があります。
人権運動や女性権利運動の帰結として、人間解放や女性解放があるのと同様です。
廃止主義
かつて、奴隷には権利がありませんでした。一部権利が認められた場合がありましたが、それは奴隷主や社会にとって有用な権利のみでした。今の動物の状態と同様です。
動物権利運動・動物解放運動は、奴隷解放運動の延長線上にある運動とされ、廃止主義(Abolitionism)と呼ばれています。
動物権利の実現にあたって考慮しなければならないこと
制限しなければならない可能性がある動物権利
しかしながら、人類との共生の実務上、動物権利を制限しなければならない場面が出てくる可能性があります。
動物解放の実務上、「人間の支配下にある動物」と「野生動物」とでは異なるアプローチが必要になりますので、それぞれ記述します。
「人間の支配下にある動物」に対して制限しなければならない可能性がある権利
人間の支配下にある動物とは、家畜動物・実験動物・伴侶動物・動物園水族館動物などです。
これらの動物の解放は、繁殖を0にすることで達成されます。
人間の支配下にある動物を野生に解放することは、さまざまな問題を引き起こす可能性があり困難です。例えば、
- 家畜化が進んだ動物はそもそも自然界に存在しない動物である
- 野生に戻しても自力で生きていける可能性がある動物は限られる
- 野生に戻すにはリハビリが必要であり、資金や専門家などリソースが必要になる
- 感染症を保持している可能性があり、解放した場合野生動物を汚染する可能性がある、など
人間の支配下にある動物に対して、特に制限しなければならない可能性のある権利は、妊娠・出産の権利です。
(* 性行為・自己決定権、プライバシーの権利、居住、移転、財産権、自由権は既に剥奪されています。)
妊娠・出産を0にすれば、数十年後には、人間の支配下にある動物はほとんど存在しなくなり、権利対象も存在しなくなり、問題は解決します。
「野生動物」に対して制限しなければならない可能性がある権利
野生動物を守ることを徹底するなら、動物の個体数や生息域等の把握・管理は必須となります。社会として動物の状況を把握していなければ、悪意を持った人々が秘密裏に捕獲・殺害するのは容易だからです。
また、動物による人間の殺傷・過度な個体数増加・人界への進出による人間との衝突・農作物被害・境界動物への被害などの防止も必要です。これら行うために、制限しなければならない可能性がある動物権利は、性行為妊娠出産の権利・自己決定権・プライバシーの権利・居住・移転・財産権・自由権などです。
また、動物種や生態などによって対処すべきケースが発生します。例えば、
- 管理が難しいあるいは不可能な動物。例えば、移動性動物や個体数が膨大な動物など。これらの動物に関しては、国際的な連携による管理や、種総体としての管理など、動物種ごとに決定されていくことになる
- 殺害し生命権を奪うことを検討をしなければならないケース。例えば、不可逆的な損傷を負った動物、生態系に多大なダメージを与える可能性のある感染症キャリア
- 人間の日常生活や産業活動における、非意図的な動物殺害。例えば、散歩や農業で虫やミミズなどを殺すなど
いずれにせよ動物の生命権は、可能な限り堅持すべきであり、殺害という最悪の事態を回避するために、最小かつ厳密な権利制限を行うことが必要です。これらの課題は、動物権利獲得の進展に従い議論され、決定されていくでしょう。
権利を認める動物の順番
動物権利をすべての動物種に対して一気に認めることは、個人的には可能ですが、社会システム的には不可能です。科学的知見の集積や社会の許容量に応じて、段階的に達成されていくでしょう。動物に権利を認める順番は、動物権利運動の戦略上の順番ということもできます。例えば以下です。
- 自己認識があると科学的に確定している動物から認める(NhRPがとっている戦略。大型類人猿・ゾウ ・クジラ目の動物権利獲得に集中している)
- 社会の理解や共感を得やすい動物から認める
- 食欲の制限に関連しない動物から認めるなど
動物権利以外による動物擁護活動の弱点
以下に各活動の弱点を記述しますが、これらは動物権利運動における視点からの弱点です。各活動はそれぞれ重要であり、動物擁護に欠かせない活動です。またいずれの活動も、動物権利獲得のために、市民の価値観やライフスタイルを徐々に変えていく活動として有効でもあります。
動物愛護・動物福祉活動によって行う動物擁護の弱点
動物愛護・福祉活動は、人類による動物利用・搾取、種差別を認めており、動物の苦痛の一部をケアするものであり、動物権利を守ってはいません。
動物保護活動によって行う動物擁護の弱点
動物保護活動によって守られる動物は、保護された動物のみです。保護されていない動物の方が圧倒的に多く、すべての動物を守ることはできません。また、動物保護活動は、保護動物を次々と生み出す繁殖や、法律によって保護すべきではないと定められている動物を保護することはできません。ゆえに、動物保護活動ではすべての動物を守ることは不可能です。
人々をヴィーガンにする活動によって行う動物擁護の弱点
ヴィーガンは個人の選択であり、ヴィーガンになるもならないも自由です。
人々にヴィーガンという生き方を選択してもらう活動の困難さは、やったことがある人なら誰でもわかるでしょう。社会の構成員全員をヴィーガンにすることは不可能であり、ゆえに、この方法ではすべての動物を守ることは不可能です。
法律によらない動物権利運動の弱点
法律によらない動物権利運動は意味をなしません。例えば、動物にも権利があるとしながら監禁飼育を行う動物園関係者もいますし、動物にも権利があるとしながら肉や魚を食べる人々もいます。
動物を守ることができるのは法律によって定められた権利のみです。
動物権利は、現実を変えるための道具
動物権利運動は、抽象的で概念的な活動ではありません。
今この瞬間、苦しみ、殺害されている動物を救い出すための、一刻を争う活動です。
私たちが向き合っている問題は、映画「Earthlings」に見事に描かれています。
この映画は、権利を持たないことの恐ろしさを描いた映画でもあります。
「Earthlings」を観て現状を知り、動物権利運動に参加してくださる方、特に法律家の参画が増えることを期待しています。
(目黒峰人)
《参照》
Wikipedia. 動物の権利/Animal rights/
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